大判例

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長崎地方裁判所 昭和26年(行)8号 判決

原告 松口大三郎 外一名

被告 佐世保市長

一、主  文

原告らの訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

二、事  実

原告両名訴訟代理人は「被告が昭和二十六年九月二十四日附を以て為した原告らに対する免職処分を取消す。被告は昭和二十六年九月二十一日以降判決が確定するまで原告松口大三郎に対しては一ケ月金一万五千四百七十五円の割合により又原告帆足勇夫に対しては、金一万三千五百円の割合による金員を夫々支払うこと。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並に右第二項について仮執行の宣言を求め、その請求の原因として原告松口大三郎は被告の管理する佐世保市立市民病院に市医として、又原告帆足勇夫は同病院の技手として夫々勤務していたものであるが、被告は原告両名は昭和二十六年五月末から同年七月末までの間上長及び同僚を陥れる目的を以て悪質なデマを公表した。又原告松口は昭和二十六年五月頃から濫りに上長の許可なくして公の施設を私用に供したものでありそれらは孰れも佐世保市職員就業規則第三十五条第七号、第八号に該当するものとして原告両名を昭和二十六年九月二十日附を以て免職処分とした。然し乍ら原告らには免職にされる理由となる事実は毫もない。被告が原告らを免職とした理由は他にある。即ち原告らは予てから前記病院の経営内情について(1)現金の直接徴収を禁ぜられている係医員が検診料、入院費等を徴収しているため会計上多額の隠蔽された不正の存すること(2)医員の中に患者から入院費等を徴収せず擅に金品を受領している者があること(3)金品贈与の如何によつて差別待遇の著しいこと(4)院内で投薬される薬価のうち各科に於て差異のあるものがあること(例えばペニシリンの価格が内科では一本九百五十円であるが婦人科では一本五百円であるが如き)(5)院内薬品を勝手に私用の為め持ち出すもののあること(6)看護婦間の風紀につき兎角の風評のあること等著しく不健全にして不明朗極まるもののあることを痛感し、その是正のため同病院長花牟礼淳二郎に之が革正と反省を求め来つたが一向に是正せられざるのみならず却つて同人が原告らを疎外する措置に出たので已むを得ず六月初旬頃原告らは長崎県議会議員石橋政嗣を通じて被告に対し、その事情を訴へ善処方を要望したが、前記院長らの揉消し工作により却つて原告らに於て退職の勧告を受くるに至り、その後問題は佐世保市の与論に取上げられ司直の搜査にまで発展するに至つた。以上の様な経緯ののち被告は九月二十日原告らを免職処分に附したのであるが原告らの敍上の行為はその目的に於ても手段に於ても公立市民病院の公共性に立脚した公平にして正しい運営の在り方を希求するの外毫末も上長を陥れる目的を以て事実に反するデマを事としたものではなく、且つ公務員としての正当な行為を為したものであるから非難せらるべき何らの理由がないにも拘らず被告は殊更に虚構の理由を構えて原告らを免職するに至つたものでその免職は違法な処分であるからその取消を求める。尚右の免職処分が取消されても給料又は給料相当の損害金が支払われない場合を考慮して請求の趣旨第二項の請求を併せて為すものであると述べ被告の本案前の抗弁に対して、(1)原告らは被告の違法な免職処分によつて生活収入の途を失いにわかに他に就職する方途もなく、現在のインフレ下に直接生存権を奪われたに等しく(2)佐世保市の公平委員会は昭和二十六年の九月に委員の任命があり、機構の整備が漸く緒についたばかりであるから本件の審査が長期に亘ることが予想され、それらは行政事件訴訟特例法第二条但書の「訴願の裁決を経ることに因り著しい損害を生ずる虞のあるとき」に該当すると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は本案前の抗弁として主文同旨の判決を求め原告らの免職処分に対しては地方公務員法第四九条第四項の規定により佐世保市公平委員会に対して審査の請求を為し得ることになつていて、現に原告らはその審査請求を為しているから、その決定があつた後、その決定を不服とする場合に提訴し得るのであつて、この決定を俟たずにした本件訴は不適法である。然らずんば訴願前置主義は無意味となる。又両者の結果が衝突する怖れがあると述べ、本案に対して「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求め答弁として被告が原告両名をその主張の日附を以てその主張の如き理由ありとして免職処分としたことは認めるが、それは正当な理由に基くものである。その他の原告等主張事実は凡て之を否認すると述べた。(立証省略)

三、理  由

先づ被告の本案前の抗弁について判断する。被告の管理する佐世保市立市民病院に勤務していた原告松口大三郎、同帆足勇夫が昭和二十六年九月二十日附を以て佐世保市職員就業規則第三十五条第七号、第八号に該当するものとして免職処分に附されたことは当事者間に争がない。而して成立に争のない乙第一号証によれば原告らは右の処分を不服として同年十月佐世保市公平委員会に対してその審査請求を為したので目下同委員会でその請求を審査中でありその裁決も今年中には為される見通しが立てられていることを認定し得る。行政事件訴訟特例法第二条本文によれば所謂訴願前置主義がとられていて、行政庁に対する不服の申立ができる場合はその裁決を待つて始めて訴を提起するのが原則であるから本件については未だその要件を充たしていないものといわねばならない。然し原告らは本件には同条但書の適用があつて適法であると主張するのでそのことについて判断する。原告両名本人訊問の結果によれば原告らは本件失職以来定まつた収入の道を失い困つていることは充分看取し得るが原告松口は医師として又原告帆足は薬剤師として夫々高度の職業技能を有して居り又当面の生活については養家先又は実父乃至は妻の実家等縁故による扶助を為して呉れるものもあつて所謂日常の糧に困窮するものとは異なるものであることを認めることができる。そればかりでなく、佐世保市公平委員会が近く原告等の審査請求に対し、裁決を下すべきことは前段認定のとおりであるから、斯様な場合は、原告等主張のような訴願の裁決を経ることにより著しい損害を生ずるおそれのあるときその他正当の事由があるときというには当らないものと判定するのが至当である。されば原告らには行政事件訴訟特例法第二条の但書によつて特に審査の裁決を経ずして訴を提起し得る理由はないといわざるを得ない。さうだとすればこの点に関する被告の主張は理由があるから原告らの本件訴は本案の審理に入ることなく不適法にして却下を免れないものといわねばならない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 林善助 野田普一郎 菊地博)

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